サイエンティストの業績捏造

サイエンティストの捏造に関して、新たな話が出た。
http://www.asahi.com/national/update/0520/TKY200505200359.html?t5
文部科学省補助金を交付する「21世紀COEプログラム」で、名古屋大学から提出された
申請書類に虚偽の研究業績が含まれていたのだ。
虚偽は大学院多元数理科学研究科の藤原一宏教授の業績部分で、COEプログラムの申請者
(代表者)自身だ。
この関連プロジェクトは03年度事業に採択されており、これまでの3年間で約1.5億円が使われている。


虚偽の内容は業績として研究論文8本が書かれていたが、このうち3本は掲載されていない
ものだったのだ。
前回ブログのデータ捏造に対して、これは業績の捏造といえる。
むろん業績の捏造など、調べられてしまえば誰にでもバレてしまうわけで、どうして
こういうことをしたのか、一般の人には理解しがたくもあるだろう。


実は自分はサイエンティストとして似たような状況を目の当たりにしたことがある。


まず、その前にサイエンティストが論文を作成し、投稿から掲載決定に至るまでの手順を
説明しよう。
投稿した論文は審査を受ける。審査の方法は論文誌によって若干異なるが、関連分野の
サイエンティストに渡り、その人が読んで判断する。だいたい2人か3人で審査される。
そして、その結果を元に論文誌の編集責任者が、だいたい以下の4つのパターンの審査結果を決定する。


1.OK文句なし、掲載可
2.ちょっと〜〜の部分を直さないとダメです・そこを適切に直してくれたら掲載可にするよ
3.これでは掲載不可、〜〜の実験もする必要があるし、〜〜の考察ももっと工夫せよ
4.問題外です、あれもこれも全然だめ、掲載不可


1はすでにOK、2は大人しく審査員の言うとおりに直せばOK。
OKとなって初めて「掲載予定(in press)」となる。
4はサイエンティストの能力が足りないか、投稿する論文誌のレベルが高すぎたためで、
論文誌のレベルを下げるか、実験を根本から見直すしかありません。
問題は3です。〜〜の実験もする必要があるし、〜〜の考察ももっと工夫せよとあるので、
はい、そうしました。これでOKですね。と都合良く考える人がいるものだ。
しかし、この場合、審査で掲載不可と言われているので、直しても再投稿することになる。
なので再度の審査で1か2にならなければ掲載OKにはならないのだ。
もっといっちゃっている人になると、4を食らい、論文誌のレベルを下げて投稿しました。
そのレベルの論文誌なら掲載可になるに違いない。はい掲載OKですと勝手に思ってしまう
人がいるのだ。


この藤原教授の場合、97年に不採用になっていた論文は彼の中では4に当たるものだったの
ではないかと感じる。実際は次の雑誌への投稿もしてないのにだ。
「別の論文はその論文誌に出したと勘違いしていた。実際は仲間内の数学者のグループで開いた
シンポジウムの報告集に掲載しているものだった。」
シンポジウムの報告集なんて審査もないし、前駆的なデータでも全然OKなので、こんなもの
いくら出していても全く意味がない。だいたいそんなものに出したことと、論文誌に出したことを
間違えるわけがないと感じる。


一つ一つの論文を早く掲載させ、かたづけていきたいと思う気持ちの中で、まだ掲載が
決まっていない段階で掲載されるに違いないと思いたい気持ちは理解できる。
少しでも業績を増やして研究費の採択に有利になりたいと、思う気持ちも十分理解できる。
しかし、今回の件は勘違いという問題でなく、もはや論文業績の記述に自分の都合のよい
考えが入り込んで、しかもそれになにも疑問を感じない、つまり麻痺してしまっている
ものだと思います。そうでなければ3報もこんなことになるわけがありません。
自分はこれは勘違いやミスではなく、完全な業績の捏造だと思います。
当然担当教授は懲戒処分などの重い処分を受けるべきだと思うし、すでに受領した1.5億円は
国に返還すべき(させられる)ものだと確信します。
これらのお金は国民の税金であることを忘れてはなりません。