サイエンティストのデータ捏造

大阪大の研究グループが昨年10月に発表した論文に、捏造されたデータが使われたことが
わかり、問題になっている。
http://www.asahi.com/national/update/0519/OSK200505190020.html?t5
学内で調査委員会が設置されとのことで、その調査結果に注目したい。


自分もサイエンティストの一人として、今回の件に限らず、学会などでデータ捏造のうわさや
実際捏造の確信を感じる発表を目の当たりにすることがある。
今回のケースのように全く実験していないデータや、そもそも実験に使われた生物系統が
存在していないというのは、全くひどいケースであるだろう。


どうしてデータ捏造が起こりうるか考えてみる。研究の世界は他の世界と同様に競争社会だ。
ある仮説を建てて、それを証明するために実験をする、実験データから何が考えられるか、
考察し、そして最後に論文の作成に至るわけだ。最先端の分野ほど、また人気の高い分野
ほど、研究グループ間の競争が激しく、グズグズしていると先を越され、もやは論文と
して公表出来なくなる(論文の発表には審査があるため新規性がない論文は受理されない)。
論文の成果は即、研究グループの研究費の採択に関わってくる。
研究は始めたけど、論文が出なかったとなると次から研究課題は採択されず、いずれ研究を
遂行するのもままならない状況になるのだ。
今回の捏造論文の責任著者は下村伊一郎教授とのことだが、調べてみるとまだ若い。
おそらく、ここまで飛ぶ鳥を落とす勢いで研究成果を上げ、それによって研究費が潤って
いたのだろう。


実際に捏造データを出したのは学生とのことだ。やった学生が悪いのではという意見が
あるかもしれない。
しかし自分の経験ではこういうケースでは、やはり責任教授の監督不行届か、研究室運営の
仕方自体に問題があることが多い。
学生にプレッシャーをかけ、強くデータを出すことを要求しているのかもしれない。
期限付きの研究員や途上国からの研究員などは雇用の継続をタテに、研究成果を要求する
ケースも良く耳にする。
首を切られてはたまらないと奮起はするものの、研究は甘くない。がんばれば思った通り
のデータが出るわけではなく、あくまで真実がかいま見れて来るだけなのだ。
始めの仮説が間違っていれば、それを改めない限り、正しい結論に到達出来るわけないし、
それによって元々の採択研究課題の目的とずれてしまえば、もはや研究課題の継続は諦めなくては
ならないのが本来の筋だ。
が、今の研究費制度は貰った物勝ちなのである。貰ってしまえば、研究成果報告書の提出は
あるが、これは大したことを書く必要はない。


どうしたら捏造をなくせるか、これは実は真剣に考えなくてはならない問題だと思う。
独立行政法人化でますます競争が激しくなり、こういった捏造や捏造疑惑も増加するだろう。
今回の調査の結果次第では、責任教授の懲戒処分などの重い処分も必要と思っている。


誰が責任を取るのか、こういうことが再発しないためにはどうするべきなのかを考えなくては
ならないのだ。



この件については機会があればまた後日書きたい。