クローン猫ペットとエピジェネティックス

世界で初めてクローンペットのビジネスを始めた、米カリフォルニア州ベンチャー
企業が、年末に廃業するとのことだ。
クローン猫はほとんど売れなかったという。まあ、初めから分かっているがいくら
遺伝子が同じとはいえ、もう一度生まれなおした生物は元の生物とは違う。
死んだものと後天的に獲得される性格や、共有した思い出も当然違うわけで、クローン
ペットと出会って、また癒されるーなんてことはないだろう。


後は高価な血統がそのまま受け継がれ、商売としての付加価値が維持できるかどうかが
問題なわけだが、記事にもあるように同じ遺伝子を引き継いでいても、毛の模様は
同じにはならないのだ。この一行は極めて重要な意味を持つ。
元々、生物の遺伝情報はDNAにある4つの塩基の配列ですべて決定されているという
考え方が以前は常識だった。が、実際には真核生物のような遺伝情報が核に収められて
いる生物では、遺伝子の構造を制御するようなメカニズムがたくさんあり、これらに
よって4つの塩基配列だけでは制御されない現象が多々見つかってきた。よって
クローンで4つの塩基配列だけを同一にしても、同じ形質の生物が複数作ることが
できないことが分かった。4つの塩基をクローン化しても生物のクローンは作れないと
いうことだ。それどころかクローン羊にみられたように、クローン技術で作成された
生命体は短命であることが明らかになった。ちゃんとした生命を維持するメカニズムも
現在のクローン技術では保たれていないのだ。


4つの塩基配列で制御されていない遺伝情報のメカニズムを扱う学問分野を遺伝学
(ジェネティックス)に対応して、エピジェネティックスと呼ぶ(エピとは後天的な
という意味がある)。この分野は最近とても注目を浴びている最先端の研究分野で
ある。エピジェネティックスに関わる新しい発見および解明に関して、将来ノーベル賞
受賞者が出るのは間違いないだろう。
まあ、自分のその端くれサイエンティストとして日々頑張るわけだ。