論文の捏造問題への対応

厚生労働省直轄の国立感染症研究所が10億円以上の国費をかけて開発している
国産エイズワクチンで、同研究所チームがサルで有効性を証明したと昨年発表した
論文に誤りがあり、訂正されることが分かった。とのことだ。
http://www.asahi.com/national/update/0803/TKY200608030553.html
そうか、論文の訂正かと思いながら記事を読んで驚いた。感想としてこれを捏造と言わず
して何と言おうというのだ。


今回、この件が非常に問題だと感じるのは、内部審議委員会まで設けて調べたにも関わらず、
その結論として報告書で、誤りの原因を「実験データの管理の不備」ということにした
ことだろう。データの訂正後も掲載論文の結論に相反するものではなく、「悪意のある
データ改ざんやデータ捏造(ねつぞう)には当たらない」と結論づけ、論文の訂正を
求めるということで済ませてしまったのだ。


感染症研側は「結論に影響はない」ということだが、その部分の1つとは、サルの免疫
反応の値のばらつきを実際の実験結果の5分の1に過小に表示していたということだ。
このバラツキを小さく表現するのは、まさに捏造の常套手段であり、サイエンスをおこなう
上で絶対にやってはいけないことにかかわらず、よくその疑わしい論文が見あたるものでもある。
まさにこの「結論に影響はない」と言った考えをしてしまう、とんでもないサイエンティストが
いて、そういうのが勝ち組として、結構お偉方にいるのが一番の問題点だ。
生命科学の研究分野は実験科学が中心である。すなわち、実験で証明できないことは
あくまで仮説に過ぎず、真実にはならないのだ。真実になるまでは実験科学手法の
発展を待たなければならないこともある。それが実験科学なのだ。
あくまで仮説に過ぎない思いこみが、このような捏造により、さも真実のように表現
されることは絶対に許されるべきことではない。
感染症研自体にそのような「結論に影響はない」考えが蔓延しているとすれば恐ろしい
話で、今後のことを考えたら、感染症研自体を一度潰した方が良いだろう。


かなり厳しい指摘をしているが、この部分はサイエンスの最も基本的な部分で、
実験科学に関わるサイエンティストが死守しなければならない点なのだ。
大阪大の下村研、東京大の多以良・川崎問題とこれまでいくつか述べてきたが、今回の
件は問題自体それほど大きくなっていないが、サイエンティスト倫理という点で、
研究所自体の考え方の問題が露呈した最も取り上げる必要のある事件だと思っている。


ついでにこの記事。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060805it04.htm
文部科学省は相次ぐ研究論文不正への対策として、データのねつ造や改ざん、
盗用などの告発を受け付ける窓口を省内に設置することを決めた。とのことだ。
良いことだとは思うが、匿名がダメということでは、誰もわざわざリスクを冒して、
ここに告発する人などいないのではないかと思うが。
どうなるだろうか。