個人のゲノム配列

DNAの2重らせん構造を見つけ、1962年にノーベル医学生理学賞を受けた米国の
分子生物学者ジェームズ・ワトソン博士(79)のDNAの全遺伝情報(ゲノム)が
今月末に公開される。とのことだ。
http://www.asahi.com/science/update/0529/TKY200705290419.html
これはおもしろい。
DNAの2重らせん構造は高校の理科で学習するので、多くの人は知っているとは
思うが、遺伝子の本体DNAは2本の鎖がらせん階段のように絡みながら、続いている。
これはどんな下等な生物でも共通している構造だ。
ヒトを含めた真核生物(遺伝情報が核という細胞内小器官で区画化されている生物)は、
少し高等でこの2重らせんがさらに縒りのようにまとまりあって、さらにヒストンと
呼ばれるタンパク質に糸巻きのように巻かれ、さらにそのヒストンが構造上重合した
ような構造になっている。それが染色体として光学顕微鏡レベルで見ることができる
構造である。


話を戻して、ヒトゲノム配列はすでに決定している。しかし、複数のヒトの配列を
調べていくと、個人個人、人種によって大きく異なる部分もあるし、1つの配列のみが
違うところもたくさんある。この1つの違いがSNPと言われ、病気のかかりやすさ、
薬の効きやすさ、あるいは気性に関わっている。さらに言えば頭の良さ、運動神経の
良さとかもSNPである程度説明付くことが予想される。
よって一人一人の全ゲノム配列をたくさん決めていくという作業は、とても重要で
様々な知見が得られる面白い研究なのだ。
が、これは極めて高いレベルのプライバシーに関わるので、誰も自分のゲノム配列など
公開されたくないだろう。自分の親、親戚、子孫の遺伝情報まである程度、推測されて
しまうので、個人の問題に留まらない。
これをやったのが、さすが2重らせん構造を決めたワトソンというわけだ。


さらにすごいのは僅か(というと驚かれるかもしれないが、やはり僅かなのだ)、
1億2000万円と2ヶ月で全ゲノムが決められてしまう。
これができたのが記事にもある「454 Life Sciences」のテクノロジー
http://www.454.com/
1回機械を動かすだけの解析で数百万円かかると聞いたことがある。しかし、それだけで
数十〜数百メガのゲノム配列が解析できてしまうらしい(ヒトのゲノムサイズは約3ギガ)。
以前のヒトゲノムプロジェクトは何年かかったか。10年くらいかかったと思うが、
今は2ヶ月でできるということだ。
もうしばらく前での話だが、日本には3台あり、タカラバイオの子会社「ドラゴンジェノミクス社」
には入っていると聞いた。
こういうことが出来ると個人は特定できなくて良いから、とにかくたくさんのヒトの
配列を明らかにして、網羅的にSNPを明らかにしたいと思う。ヒトに限らない。
植物でもやってみたらとても面白いことが分かる。品種間、生態型間の違い。
例えば日本米とインド米といったイネ間での違い。
こういう情報が増えて色々と使えるようになるのを楽しみにしている。